デッサンの基礎~線の描き方 鉛筆をコントロールして使おう
アートスクール通信講座受講生の添削をしていると、よく「真っ直ぐな線を引くにはどうしたら良いでしょうか」という質問や相談があります。
デッサンで絵を描く上で線を描くことは、実は簡単そうですが案外難しいものです。
平面や立体物を描く場合などでも大切な基本となることでありながら、誰もが簡単確実にできる方法はありません。 1人1人やり方が少しずつ違うのです。 ただ、おおよそ共通するものも多く、色々な方法を知ってもらい、自分に合った描き方を探してください。
1.真っ直ぐな線を描くためには自分で描く線をコントロールできること
アートスクールの通信講座では、最初にハッチングの練習から入り、立方体を描いていただきます。 このような立体物を描く場合、本当に真っ直ぐな線ばかり描くことになるので、「真っ直ぐな線」という表現になるのかもしれませんが、デッサンでは様々な線を自分の意思通りに描けてこそ上達します。 真っ直ぐな線=いかに自分で線をコントロールするのか、という観点で考えてください。 考え方はともかく、具体的にどのようにデッサンする時描いているのか、周辺にたくさんいる講師たちに取材してみました。
2.線を描く上でのポイントと注意点
(1)力を入れずに軽く鉛筆を持って自分が思うところ(目標)に向かって鉛筆を動かす。
鉛筆を軽く持って動かしていますか?真っ直ぐに線を引こうと意識して手首も指先もがっちり固定して、鉛筆を握っていませんか。
当たり線ならいずれ消すか消えるかするものなので、軽く紙を傷めないように描くため、意識して鉛筆を軽く持ちます。 持ち方は、講師は皆バラバラです。私は机上に置いた鉛筆を、親指、人差し指、中指の3本の指でつまみあげ、そのまま描きます。別の講師は、手のひらを上に向けて通常文字を描くときの持ち方をして、そのまま手のひらを上に向けて軽く手に乗せるだけで描いています。普通の鉛筆持ちのまま、筆圧で調整する講師もいます。 ポイントは手を動かしやすいか、紙と鉛筆の先が見えているかです。
(2)線を引くときに鉛筆の先端を見ない。
(1)で鉛筆の先が見えるように持つ と書いていますが、先が見える手の位置と、先を見て描くのとは違いますので注意してください。
鉛筆を目的地に運ぶ意識で考えてください。
歩く時、自転車や車の運転でも誰も足先をみて動きません。目的の方向を見ながら動くはずです。
前を歩く人が何だかフラフラ不安定な歩き方をしているなと思ったら、スマホをじっと見ながら歩いていた何てことはありませんか?鉛筆の先端を見ながら描くということは同じことです。
どんな線をどこまで引くのか意識して描きましょう。真っ直ぐ?曲線?波打つように? 何となく描くのも、見ていないのと同じことです。ただしそう思うあまり肩に力が入ると逆効果ですので気をつけましょう。
ここで問題なのが、ではどこを見て描くのか人によって違うことです。
終点となる位置を見てそこを目指して描く人、描き始める前に、およその方向(軌道)を想定して手の移動と目の移動を同時に進める人(文字で書くと難しそうですが意外にこのタイプが多いです)、ポイントとなるものを意識しながら描く人色々です。
ただちょっとしたコツはあります。
絵を描く紙の辺は真っ直ぐで直角に交錯しています。線を引く時、最寄りの辺との幅をずれないように意識して描けば、真っ直ぐに近い線になります。デッサンする前に紙の中央に十文字のラインを入れて目安にする人もいます。 前述した内容、方法を参考にして実際に是非描いてみてください。言葉では解らなかったことや、自分にとってどの方法がやりやすいか実感しないと、頭だけで解釈していては、上達は難しいですよ。
(3)鉛筆を持った手は、紙につけて描かない
デッサンをしていると、いつの間にか紙そのものや、鉛筆を持っている手のひらの小指側が黒くなっていませんか? 何か手を支えるものがあるとコントロールしやすいので、紙面に手をついている方が多いようです。
鉛筆なら消しゴムで消せますが、油絵や水彩画、日本画、ほとんどの絵画の技法が手をついて描くとアウトです。ですので、アナログで絵描きになろうという人たちは皆手を浮かせて描いています。もちろん最初は不安定ですが、手を紙から解放して初めて自由にコントロールした線を引けます。A4位の画面ならともかく、10号・20号、100号など画面が大きくなるほど手に負えないですよね。同様に手首を付けたままで描くとコンパスを使ったように曲線になります。あえてそれを利用して曲線を描く時は有りますが、手を道具として利用しているテクニックと考えてください。
消しゴムで消せばやり直せる鉛筆デッサンの段階で、手を浮かせて描く訓練をしっかりしましょう。
初めは鉛筆を持っている手の小指だけを紙に軽く乗せて手のブレを緩和している講師もいます。 初めから手を浮かせて描くことにチャレンジしても構いませんし、少しずつ紙に手を乗せる頻度を減らすようにしていっても構いません。描くうちに自分のオリジナル方法が生まれるかもしれません。こうやって描かなければならないということありませんから。
(4)描く時の姿勢も大切
意外に知られていないのが、描く時の姿勢が大きく絵に影響するということです。 絵を描く時は、対象(モチーフや風景)が必ず体の真正面になるようにしましょう。
体の向きもですが、背筋が曲がっていると絵もどこか曲がってしまいます。描いている最中は気が付かないのですが、落ち着いて数メートル離れて見ると大抵歪んでいます。疲れてくると、初めは真っ直ぐ伸びていた背が丸まってくるので視点がずれてきて、見えていた面が見えなくなったり、縦線とつじつまが合わなくなったりします。 一見、線を描くことに必要のないことのように思えますが、形が上手くとれないと言われる方で、これが原因の事もよくあります。
まず、人の集中力は良くて大抵2~3時間ですから、休憩を入れるようにしましょう。
絵を描き慣れていなければもっと早く集中力が切れますし、背筋も普段から訓練していないと数分で曲がってしまう人もいます。このように細部まで意識することで少しずつでも集中している時間を延ばせますから、初めから無理はしないで、失敗が続いたり、描く気が失せたりしたら合図だと思って休憩しましょう。
適度な休憩も良いデッサンを描くコツです。
(5)繰り返し線を毎日一本でも多く引く練習をする
毎日一本でも多く線を引く、これには2つの意味があります。
当たり線を何本か引いて、おおおその形をとった後、正しそうな線を残していらない線を消しては、また形を見直して線を引いたり消したりを繰り返して正確な形に近づけていきます。これがおおよその形をとるということです。
音楽でも、書道でも上手くいくまで反復練習しますよね。それと同じです。
提出された課題作品を見ると、いきなり濃い線を描いてそのまま簡単に陰影をつけただけの方がおられます。陰影の濃淡や質感はハッチングの線の間隔を調整することで表現できますので、繰り返し練習をしてコツを掴むようにしましょう。
繰り返し当たり線を引いて、正対して見ているモチーフに近い形を探る。 これを繰り返して、この手数を少しずつ減らしていくように観察力をつけることが一つ。もう一つは、スポーツをする前のウォーミングアップと同じで、美術の世界でも座ってすぐ描き始めるよりも、線引き練習をして、体を一定に保つこと、気持ちを描くことに集中させる方向に持って行きます。
具体的には、
①チラシの白い裏でもクロッキー帳でも良いので、A3かB4(大目に見てA4くらい)の紙に端から端まで線をできるだけ等間隔に引いていきます。 縦横斜め(➚ ➘)全てを同じ画面に重ねて描いていきます。あせって早く乱暴に描くより、ゆっくりでもコントロールすることを意識して線を引く方が効果的です。
②基礎デッサンの初めの課題であるグラデーションを描く。 以上のことをどちらか一つでも構いませんし、交互にしても良いですので毎日の習慣化しましょう。毎日というのはこちらの希望で、努力目標と考えてください。 これをデッサンしない日でも描いていれば線をコントロールすることができます。 鉛筆の濃さは問いませんが、グラデーションの場合は、薄い鉛筆だけでは大変です。
こういった目的に合わせて鉛筆を選ぶことも大切だということも知っておいてください。
(6)息をしていますか?
唐突な問ですが、この息(呼吸)も曲者です。
意外に講師によってバラバラでした。
①息を吐きながら線を引く派
②息を止めて線を引く派
③あえて意識しないで線を引く派
ほぼ上記3種類です。
結局全てですよね。 でも、みんな理由はちゃんと説明してくれました。
①派
息を吐くことで肩の力が抜けるので、緊張がとけて自在に線が引ける。
②派
線の行き先をしっかり意識した上で戸惑わず一気に線を引ける。
③派
描くことに集中するから呼吸の事は忘れている。 中には時々息をしていなかったことを苦しくなって気づいて、あわてて息をするという猛者もいました。
④派
短い線の時は、息を止めるし、長い線の時は息を吐きながらという適宜混合派が一番多いようでした。
結果、自分が描きやすい方法をとれば良いということになりますが、色々試してください。
何でも良いと考えないで、自分にとってやりやすい方法を探すつもりで実行してみてください。
(7)長い線にこだわらない
直線を引けないと言う方のイメージは、端から端まで一気に真っ直ぐ線を引くイメージでしょうか?
デザインを生業にされる方が描かれる線は、真っ直ぐでゆるぎない線で形をしっかり表現されるところが格好いいですよね。
画家のデッサンでも、クロスハッチングでサラッと影の部分を表現している部分が、ぴったり等間隔で真っ直ぐな線で表現されていて、上手さを実感したりします。
それがなぜ長い線にこだわらなくなるのか?
短い線をつなげて長くしても、同様の効果がでるからです。
当たりの時に一気によく形を意識しないで描くよりも、(1)で書いた、目的地(終点の位置)、軌道(経路)にたどり着くよう短い線をつなげるようにして描いた方が、思い描いている線に近くなります。 初めは多少ぎくしゃくしても、描き慣れればほぼ一本の線に見えるように描けます。 ウォーミングアップは、できるだけ長い線を引くよう意識してほしいですが、デッサンする時やラフスケッチをする時など、堅く考えないで気楽に数多く描いた方が練習になります。
(8)鉛筆の先はとがらせる
鉛筆を使う前や使っている時、芯が尖っているかどうか意識されていますか?
これは簡単に実践できるので経験してもらいたいのですが、芯が尖っていないと自分が思ったところに線を描けません。
何センチも違ってくるわけではなく、ほんのわずかな(1・2ミリ行くか行かないかくらい)違いなのです。 ざっくりあたりを取る時はあまり関係ありません。仕上げに近くなって、ピシッとラインを決めたい時や、知らず知らずのうちに手がこすれて、線が曖昧になってしまった時に描き起こす際、大切なテクニックになります。
芯が尖っていると、ピンポイントで線を引きたい部分に先があたって狂いがありません。
使い込んで丸くなっていると、よくずれてしまいます。
また、尖っていると同じ力で描いても、筆圧が上がってシャープな線になります。
線の種類をコントロールすることも、鉛筆をコントロールして、望む線を描くことに含まれます。
対面であれば簡単に説明できることですが、通信という環境の場合は言葉と図(描画)で理解していただけるように解説しなければならないため、面倒な長文になってしまいました。
よく意味が解らない所は、メールや課題に書いてくだされば、写真や図解、オンラインででもご説明します。
ですが、まず失敗しても、間違っても、思うように描ければなお良いと思って、たくさん描いてください。
繰り返し練習することで直線だけで描いたモチーフでも光沢や質感をしっかりと表現できる方法が身につきます。立体を描く場合でも遠近法の修得だけではなく線を描く基礎を修得する必要があります。
鉛筆をコントロールして線を描くことは、デッサンだけでなく絵画・美術全体の基礎であり、とても重要なことなのです。
描き続ける事が一番の上達方法です。
くじけず鉛筆で線を描いていきましょう。
デッサンコース講師/松下 裕恵